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背景アーティスト対談

2010.03.19

3人の板垣

          板垣さんと開発スタッフの対談、今回は背景アーティストの皆さんに集まって頂きました。よろしくお願いいたします。
一同 よろしくお願いします。
          まず始めに、皆さんそれぞれ自己紹介をお願いします。
久保 背景アーティストの統括と、背景全般及びコンセプトアートを描いている久保と言います。コンセプトアートは主に背景画寄りの世界観を描いたものが多いです。
久保 匡史 背景アートリード
代表作品:
・ NINJA GAIDEN 2 (Xbox 360 / 2008) 背景アーティスト、コンセプトアーティスト
・ DEAD OR ALIVE Xtreme 2 (Xbox 360 / 2006) 背景アーティスト
・ DEAD OR ALIVE 4 (Xbox 360 / 2005) オンラインロビーデザインリード
・ モンスターファーム4 (PS2 / 2003) 背景アーティスト
・ アルゴスの戦士 (PS2 / 2002) 背景アートリード
・ モンスターファーム (PS2 / 2001) 背景アーティスト
・ 蒼魔灯 (PS / 1999) 背景アーティスト
(以上全て テクモ株式会社 開発・販売)
経歴:
・2007年6月にテクモ株式会社を退社後、業務委託スタッフとして複数のゲーム開発に携わる。
          ゲームの世界観を久保さんが形にされているということでしょうか?
久保 そうですね。ストーリーからインスピレーションを受けたり、アートディレクターの松井や平賀と話をしながらどういう方向に絞っていくか決めて、それを基に「こういう形でどうですか?」と絵に起こしています。
          分かりました。それでは、次の方お願いします。
加藤 背景のアート全般をやっている加藤です。
加藤 英之 背景アーティスト
代表作品:
・ NINJA GAIDEN 2 (Xbox360 / 2008) エフェクトアーティスト、キャラクターアーティスト
・ DEAD OR ALIVE Xtreme 2 (Xbox360 / 2006) UIアーティスト、ジェットスキーモデラー
・ DEAD OR ALIVE 4 (Xbox360 / 2005) UIアーティスト、キャラクターアーティスト
・ DEAD OR ALIVE Ultimate (Xbox / 2004) UIアーティスト、キャラクターアーティスト
・ DEAD OR ALIVE Xtreme (Xbox / 2003) UIアーティスト
・ DEAD OR ALIVE 3 (Xbox / 2002) UIアーティスト、キャラクターアーティスト
・ DEAD OR ALIVE 2 (PS2 / 2000) キャラクターアートリード
・ DEAD OR ALIVE++ (業務用 / 1998) キャラクターアートリード
・ DEAD OR ALIVE (SS / 1997) キャラクターアートリード
・ DEAD OR ALIVE (業務用 / 1996) 背景アーティスト
(以上全て、テクモ株式会社 開発・販売)
板垣 彼はメカオタなんですよ。
          そうなんですか?
加藤 メカ関係が得意ですね。細かいものを作るのが大好きです。
          これまでもメカなどを作られてきたのでしょうか?
加藤 こだわりが必要なものは僕に任される事が多かったですね。
          具体的にはどのようなものを?
加藤 DEAD OR ALIVE 4でSpartan-458(※1)のモデリングをやりましたね。
※1   Spartan-458とは、Xbox用超大作Haloからのゲストキャラクター。開発元のBUNGIEとの交流によりDEAD OR ALIVE 4にゲスト出演する事になった。
          それはすごいですね! では、次の方お願いします。
小浜 小浜と申します。これまでは背景アートの3Dオペレーターをしてきていまして、今は久保のアシスタントとして仕事をしています。これまでに培った僕の経験や知識を活かして新しいアプローチをしたりなど、楽しく仕事をさせてもらっていますね。
小浜 剛 背景アーティスト
代表作品:
・テイルズオブヴェスペリア (Xbox360 / 2008) 背景アーティスト (C)NBGI
・ドラゴンクエストソード (Wii / 2007) 背景アーティスト (C)SQUARE ENIX
・ブレイブストーリー (PSP / 2006) 背景アーティスト (C)Sony Computer Entertainment Inc.
・天外魔境 ZIRIA (Xbox360 / 2005) 背景アーティスト (C)HUDSON SOFT
          今は開拓をするようなスタンスで仕事をされていると?
小浜 そうですね。新しい自分をまた探すような感じで楽しいです。
          では最後の方、お願いします。
大西 背景モデリング全般を担当している大西です。特定の箇所だけでなく幅広くやっていますね。
大西 正人 背景アーティスト
代表作品:
・NINJA GAIDEN 2 (Xbox 360 / 2008) シネマティックリード、エフェクトアートリード
・NINJA GAIDEN Dragon Sword (DS / 2008) エフェクトアーティスト
・DEAD OR ALIVE Xtreme 2 (Xbox 360 / 2006) ゲームデザインリード
・DEAD OR ALIVE 4 (Xbox 360 / 2005) アニメーター、シネマティックリード
・NINJA GAIDEN Black (Xbox / 2005) シネマティックリード、エフェクトアーティスト
・NINJA GAIDEN (Xbox / 2004) ゲームデザイナー、シネマティックリード
・DEAD OR ALIVE Ultimate (Xbox / 2004) シネマティックリード
・DEAD OR ALIVE Xtreme (Xbox / 2003) シネマティックリード
・DEAD OR ALIVE 3 (Xbox / 2002) ゲームデザイナー、シネマティックリード
・DEAD OR ALIVE 2:Hardcore (PS2 / 2000) シネマティックアーティスト
(以上全て、テクモ株式会社 開発・販売)
          分かりました。皆さん、板垣さんとは長くお仕事をされているのでしょうか?
久保 そうですね。かなり長いです。
          板垣さんの第一印象はどうでしたか?
久保 僕は、最初は別の部署に居たんですけれど、そこでは「板垣さんは怖い人だ」という話を聞いていまして、初めてお会いした時は確かに迫力は感じました。
板垣 (笑)
久保 でもそれは「怖い」というより、ものを作るのに真剣だからこそ「厳しい」、そして厳しいから怒ったりするだけなんですよ。だから僕は怖いとは全然感じなくて、「あぁ、すごく熱い人なんだな」と思いましたね。
          今はその熱さをさらに近くで感じているのですね。
久保 そうですね。しかも、その熱さの中にも冷静さがあるのがすごいと思っています。
          いま久保さんが言われた「熱さと冷静さ」というのは開発のスタンスでもあるのでしょうか?
板垣 開発チームやゲームのキャッチコピーは昔から僕が全部考えてきたんだよ。今で言うと会社のサイトに載せている社員募集のキャッチコピーや、社訓だね。そういうのを見てもらうと僕がどういう事を考えているか分かるんじゃないかな。
          なるほど。
板垣 あと、大事なことなんだけど、もう一人自分がいないと良い物って絶対作れないよね。僕なんか三人くらい自分がいるけど。「熱い自分」と「それを冷静に見て、分析している自分」、それから・・・あと一人は企業秘密(笑)
一同 (笑)
板垣 で、「板垣」の中で会議しているんです。そして3人の板垣の多数決で物事が決まっていくと。昔の戦闘機の管制システムと一緒ですよ。
          多数決なんですか!?
板垣 だけど「声の大きい板垣」が一人いたりしてさ、多数決によらないときもある(笑)
          影響力の差もあるんですね(笑)。 今のお話で、熱さと冷静さという事が分かった気がします。
板垣 じゃないとどんな仕事でも絶対だめだよね。自分を客観的に見る力というのは発信者にとって必須の能力だよね。
小浜 夜にラブレターを書いて翌朝起きてそれを読むと「なんて恥ずかしい事、書いていたんだ!」と思うのと似てますよね。
板垣 そうそう。夜書いたラブレターにロクなものはないでしょ? だけど、そこに宝石が散りばめられていたりするから、それを昼の自分が推敲するといいものができたりする。
          そうですね。
板垣 だから、大抵キャッチコピーは夜中に酔っぱらって書いているんですよ。
一同 (大笑)
板垣 そして昼間に自分と、文筆の達人である松井と一緒に校正するんだよね。
          非常に理にかなった方法なんですね。

クオリティの底上げをするディレクション

          加藤さんは板垣さんとはどれくらいなんですか?
加藤 僕は新人の頃からずっと板垣さんの下で働いていて、今年で16年目です。
          16年ですか!ずいぶんと長いお付き合いなんですね。
板垣 加藤はね、僕が持った最初の部下なんだよ。最初に4人絵描きの部下を持って、その中の一人なんだよね。
          では本当に一番長い関係なんですね。
板垣 そう、ものすごく長い。もう実の弟みたいなものだよ。
一同 (笑)
          その間の印象的なエピソードなどはありますか? そんな無茶言うなよとか・・・
加藤 無茶言うなよというのは・・・ぶっちゃけた話、いつもありますけれども(笑)
一同 (笑)
加藤 でも、ただ無茶という訳ではなくて、絵作りに関して板垣さんは特にこだわりがあって、決して妥協しないものを皆に求めるという事なんです。
          絵作りというのはどういったものですか?
加藤 画面作り、見た目、色合いなど全てのビジュアルですね。そこまでは「大丈夫かな?」と思うような絵だったとしても、板垣さんのディレクションが入ることで明らかに変わって、遊びやすくかつ見栄えのするものになるのを知っていますので、「くそーっ!」と思う事もありますがとことん付き合います。
          失礼な聞き方かもしれませんが、逆に言えば板垣さんが介入しないと仕上がらないということなのでしょうか?
加藤 もちろん、能力のある人たちが集まっていますから、あるレベルまでは板垣さん無しでも到達します。ですが、さらに上に行こうと思ったときは板垣さんの判断というものが重要になってきます。
          板垣さんはどのような意図で、最後に介入をするのでしょうか?
板垣 介入とはまた物騒な言葉だね、まあいいけど(笑)。つまるところ、個々のスタッフはそれぞれで完結した仕事というものを目指してやっているわけだよね。一方で、ゲームというのは個々のスタッフの仕事をアセンブルして統合して出来上がるものだよね。だから、そのセクションとして「こうあるべき」と考えるのは当然だけれども、実はそれは製品には必要のない場合があるわけだよ。そのことは、プログラマや企画者との、僕の対談を読んでもらえば分かると思います。
          なるほど。
板垣 例えばゲームの中に登場させる、蒸気機関車を作るとしましょう。すると当然蒸機をまるまる1台作るよね。だけど、出来上がった蒸機を見ると、なにやら動輪が角ばっていると。動輪といえば、蒸機の命だというのに(笑)。で、加藤の作った蒸気機関車を、僕が公式側(※2)からみて「なんでこの機関車、動輪が32角形なの? 角張ってるじゃない」という話をするでしょう。すると「こうしないとメモリに載らないんですよ、板垣さん」という話になる。
※2   日本の蒸気機関車の設計図面の多くは、進行方向を左側、キャブ(運転席)を右側にして描かれていました。この設計図面において手前側の側面を「公式側」、奥側の側面を「非公式側」と呼びます。
板垣 でもゲーム中で、機関車の公式側の映像しか出てこないとしたら、非公式側(※2)のポリゴンは全部無駄じゃないですか。だから「非公式側はいらないだろ。そこのポリゴンをこっちによこせよ」ということになる(笑)。当然、「えええ???」って言われますよ。だってその部分を切る判断というのは、機関車をモデリングしている人にはできないから。最終的な映像がどのように構成されるかとか、最終的な仕様が頭に全部入っている人じゃないと、そういうディレクションはできない。マシンパワーには限りがあるのでね。
          確かに。
板垣 作っている人たちが良かれと思って完結させた形には、遊びを実現するという観点からすると無駄なリソースが相当使われているんですよ。だけどこういう作り方自体が無駄なわけでは決してない。最初から公式側だけのカットモデルを作られたら、表現の柔軟性をそがれますからね。だからプロセスとして正しい。要するに「必要な無駄」ということです。
          そういった事をやられているんですね。
板垣 今のはすごく分かりやすい例として言ったけど、セクションとしての完結性とゲーム全体としての完結性は往々にして違う場合があるので、そういった所に立ち入って話をするにはスタッフとの信頼関係がないと。「この機関車半分に切れ!」と言われて、切るモデラーはなかなかいないよ(笑)
一同 (大笑)
板垣 「せっかく作ったのに、この機関車!!」という話になるんだから(笑)
          確かにそうですね(笑)
加藤 板垣さんは冗談好きだから、ふざけてこんな事おっしゃってますけど、DEAD OR ALIVEシリーズのレベルデザインをしたのは板垣さんなんですよ。
          全てのレベルデザインをやられたんですか?
板垣 全部じゃないけどね。
加藤 そういった細部と、それからゲーム全体との両方を同時に見てデザインしているのはすごいと思いますね。
板垣 でも俺が「ラスベガスのステージで車を走らせてキャラクターを轢いてやる」って言い出した瞬間にすごい嫌そうな顔したよね?
一同 (笑)
加藤 冗談かと思いましたよ(笑)
板垣 でもやったら面白かったでしょ?
加藤 面白かったです。
板垣 数学的に平等ならいいんだよ。車走らせたって。あと、あれも作ったよね、カバ(※3)。
※3   カバとは、DEAD OR ALIVE Ultimateに登場するカバ。キャラクターを吹き飛ばして当てると鳴く。通称カバデンジャー。
加藤 バッファローも作りましたね。すごい数が走っていましたよ(笑)
板垣 あれも非公式側切ったのか?(笑)
一同 (大笑)
          色んな面白いものを作られているんですね。
加藤 板垣さんのアイデアは、最初はいつも「突飛過ぎてマズいんじゃないかな」というくらいの内容が多いんですけど、板垣さんの中では確たるイメージがあるので、そこに合わせて作っていくとどんどん良くなっていって、最終的には「これがないとステージが成り立たないんじゃないか」というような形になりますね。
          なるほど。
加藤 最初はこれを組み込んだらゲームのテンポがおかしくなるんじゃないかと思っても、いざ組み込んでみるとそれが面白さにつながる事が多かったですね。
板垣 プテラノドン(※4)は失敗したなあ。予告がうまくいかなくてね。あれは廃止してもよかったな。
※4   プテラノドンとは、DEAD OR ALIVE 4に登場するプテラノドン。空中を旋回していて、鳴き声の予告とともにキャラクターに突っ込んでくる。避けるのが非常に難しい。
加藤 画面撮影するときは、あれが非常に絵になるので良かったですけどね。
板垣 ずいぶんあれで画面写真撮ってたよね。
あ、そうそう、一度だけ俺の大事な加藤を失いそうになった時があってね。
          ええっ!そんな事があったのですか!?
板垣 聞きたい?
          はい。ぜひ。
板垣 彼ね、兼業農家なんですよ。元々。
          兼業農家!?
加藤 平日はゲームを作って、土日は田んぼで米を作ってます。
板垣 他のセクションには予備自衛官もいてね、これもう、うちの会社は完璧なんだよ。米はいつでも自給自足で手に入る。やばい時のライフラインも大丈夫。
一同 (笑)
          なんかすごい人たちの集まりですね。
板垣 そうそう。でね、加藤が危険だった話というのは、ある時、彼がトラクターを置いてある納屋の前を通過しようとしたんだよね。その瞬間に納屋の屋根がドーン!と落っこちてきてね。
加藤 そうなんです。
板垣 聞いたところ、トイレに行こうとしていたらしくて、もしその時にトラクターの方に行っていたら危なかった。
加藤 ちょっと変な音がしてたので「納屋のものを外に出さないとな」と思いつつ、その前にトイレに行こうとしたんです。そしたらその間にドーンと。
板垣 順番を逆にしてたら本当に死んでたよね。
          それで九死に一生を得たという。
板垣 彼、すごいやつなんですよ。自販機荒らしを捕まえて麹町警察から感謝状をもらった事もあったね。僕は「危ないからやめとけ」って言うんだけど、やっちゃうんだよね...なんでやったの?
加藤 なんでやったのって、僕が何か悪い事したみたいじゃないですか(笑)
久保 すごいですよね。怖くなかったんですか?
加藤 周りに人がいなかったので、そんな事を考える間もなく身体が動きました。犯人がこっちに向かってくるのでラリアットでガン!と。
一同 (笑)
          ラリアットですか!?
加藤 ラリアットで倒して袈裟固め(※5)でグッと締めて。
※5   袈裟固めとは、柔道の抑込み技の一つ。相手の脇に腰を密着させ腕で挟み込み、動きを封じる。
板垣 それで警察が来るまでずっと取り押さえていたんだろ?
加藤 5分くらいそのままでしたね。犯人はおとなしくなったし、僕も途中でそろそろ放してもいいかなと思ったんですけど、犯人を追いかけてきた店の人が「そうしたら逃げるんだろう!だめだ!」と言うのでずっと抑え込んでました(笑)
板垣 店の人が「ドロボー!」と言って追いかけてきたんでしょ?
加藤 そうです。
板垣 じゃないといきなりラリアットしないよな(笑)
加藤 そうですね。悪いのが誰なのかパッと見て分かる状態だったので。それで、そのまま警察に連れて行かれまして、調書を取られて、結局解放されたのは夜10時半くらいでしたね。
板垣 解放とか連れて行かれるとか、まるでお前が捕まったみたいな言い方じゃないか(笑)
加藤 会社に荷物だけ置いてそれから警察に行ったら「加藤が警察に捕まった」みたいな話になっていて(笑)
一同 (大笑)
          すごい経験をお持ちですね。
加藤 さらにその話には続きがあって。その日は板垣さんからお願いされていた仕事があって休日出勤をしていたんですけど、警察から会社に戻って「さぁやるぞ!」と思ったら、板垣さんの自宅から電話がかかってきて「それやんなくていい。仕様変えたから」って言うんです。
一同 (笑)
加藤 でも、休日出勤している社員の仕事まで把握していて、自宅から電話をかけてきて気遣ってくれるんですから有難かったです。確かに、自分は何しに会社来たんだろう?とは思いましたが(笑)
小浜 地域の安全を守りに、じゃないですかね(笑)
          すごいですね。背景アートだけではなく、地域の安全も守ってしまうと(笑)

情熱

          では、次に小浜さん。板垣さんとはどのくらい働かれているのですか?
小浜 初めてお会いしたのは、このヴァルハラゲームスタジオに面接に来たときで。
          ということは、まだ一緒に働き始めて間もないと。
小浜 はい。まだ4ヶ月くらいですね。板垣さんの第一印象は・・・やはりその・・・存在感というかオーラといいますか(笑)
板垣 (笑)
小浜 面接では非常に緊張してしまい、あまり自分を出せなかったのを覚えていますね。なので、これから麻雀でもやりつつ自分をアピールできれば・・・
一同 (大笑)
板垣 麻雀出来なくても大丈夫だよ(笑)。あれ(※6)は松本が三味線ひいてる(※7)だけだから。でも、小浜は確か麻雀好きだっだよね?
※6   ゲームデザイナー対談での松本の発言。
※7   三味線をひくとは、相手を惑わすこと。ギャンブルで、自分の実際の手とは全く違う手を公言して相手をだますことを、このように表現する。
小浜 はい。一応、中学生からやってました。
板垣 ああそうなんだ・・・ハードル上げたね。
一同 (大笑)
小浜 今自分で言って「首締めちゃったかな」と思いました(笑)
          大西さんと板垣さんとのお話も聞かせてください。
大西 僕が板垣さんにお会いしてから今年でちょうど10年になります。
          大西さんもかなり長いんですね。その間の何か印象的なエピソードはありますか?
大西 私はこれまでシネマチック(※8)全般の統括をしていたんですが、最初に板垣さんの下に配属になったときにいきなり絵コンテを描かせて頂いたんですよ。
※8   シネマチックとは、ゲーム中に再生されるカットシーン。絵コンテを元に3DCGで映像を作り上げていく。
板垣 松井に何度描き直しさせられたんだっけ?(笑)
大西 数え切れないくらい描き直しましたね(笑)
          かなり大変だったんですか?
板垣 うちの絵コンテは全部松井が描くんですよ。彼はすごい男でね。でも後継を育てないといけないということで「竹を刀でぶった切るシーンくらいなら書けるだろう」って描かせたんだよね。
大西 全部で3枚ほど絵コンテを描かせて頂いたんですが、なかなか要求されるレベルのものができなくて、かれこれ1週間ほどずっと描いていましたね。
板垣 絵コンテ3枚描くのに1週間かけていたら商売あがったりだよね(笑)
大西 すいません(笑)。 でも、配属当初からそのような重要な仕事を任せて頂いた事がすごく嬉しかったですね。その時からずっとシネマチックを担当させて頂いていることを誇りに思っています。
          期待をかけられていたんですね。
大西 それから凄いのは、当時から板垣さんはプリレンダムービーよりもリアルタイムムービー(※9)に強くこだわりを持たれていまして。今でこそHD機ではリアルタイムムービーが主流になってきていますが、それは当時では珍しいことで。その将来性を見据えた作り方をずっとしてきたおかげで、すごく勉強になっていますね。
※9   リアルタイムムービーとは、ゲーム機の機能を使ってリアルタイムに生成されるムービー。それに対してプリレンダムービーとは、あらかじめ別の高機能なマシン等で作成しておくムービー。
          それは素晴らしいですね。
板垣 彼はね、就職活動の時に自分で作った映像をVHSのテープに録画して送ってきたんだよね。会社で見てもいいんだけど、家で見ようと思って、うちの家族と一緒に見たんだよね。
          ご家族で。
板垣 そう。で、僕の女房が「すごいじゃない!この子!」って言うわけ。僕から見たら「まぁ頑張ったかな」という程度なんだけど。
一同 (笑)
板垣 だけど学生がそこまで作り込むというのは、技術もさることながら、情熱がないとできないでしょう。あれは一人で作ったの?
大西 はい。一人で半年かけて10分の映像を作りました。当時はPCの性能が今ほど高くないので、1秒間の映像を作るのに2日間かかったんですよ。
          そんなにかかったんですか!?
板垣 それを成し遂げられるというのは、やっぱり情熱があるという事だよね。技術というのは訓練すれば身につけられるけど、情熱は訓練で身につくものじゃないからね。だから彼を採用したんだ。
          確かにそうですね。
板垣 情熱といえば、久保の情熱もすごいんだよ。
久保 僕ですか(笑)
板垣 そうそう。久保はね、「こんなグラフィック技術じゃ、戦争には勝てませんよ」っていつも僕にけしかけてくるんだよ。
一同 (笑)
久保 例えばカメラとかにしても、興味のない人は「カメラなんて1~2万円くらいのでも撮れればいいじゃない」と言うんですけど、こだわる人はもっといい絵を撮りたいから何十万円もするレンズを買ったりしますよね。分からない人からすると「何やってるの?」と思うんでしょうけど、それはもっと自分の表現を広げたいというような気持ちから来てるんですよ。
          なるほど。
久保 僕もそれと同じで、もっといい絵を作りたいと思うんです。そのための武器を調達してもらうために、板垣さんの所に行って「僕にもレンズを買ってください」とお話するわけです。
一同 (大笑)
          久保さんもカメラについてお詳しいのですか?
久保 本格的には最近始めたばかりです。廃墟とか工場とか好きで撮っていますね。
板垣 以前からテクスチャ用の素材写真とか撮ってたよね。こないだ見せたシフトレンズ(※10)、アレ良かっただろ!
※10   シフトレンズとは、レンズの光軸を平行にずらす事により、ゆがみを補正する事ができるレンズ。 例えば、目線より高い位置にある壁の写真をあおりで撮影した場合でも、ゆがみが補正されて平行に撮影することができる。
久保 あれいいですよね! 今のところテクスチャ素材写真が撮りやすいとかそういう事しか思い浮かばないですけど。背景アーティストという職業柄ですかね(笑)
板垣 テクスチャを撮るのに最適だから、紹介したんじゃないか(笑)
          それでカメラについても板垣さんと詳しいお話ができるようになったと。
板垣 そうなんだよ。というかヤブ蛇でさ。「板垣さんは何百万円もするカメラやレンズを買ってますけど、僕もそれと同じこだわりがあるんです!」て言われたら反論のしようがないんだよ(笑)。 ただ一応お断りしておくと、僕の写真機材は全て僕個人のお金で買ったものだからね。
久保 僕はこの仕事をPlayStationの時代からやっていますけど、グラフィッカーがやる仕事というのが年々変わってきていて。昔は「小さい解像度の中にどれだけ情報を書き込めるか」「少ないポリゴン数でどれだけ立体に見せるか」という感じだったものが、現行機では逆に書き込みではなくてシェーダーなどの組み合わせで「どうやったらよりリアルなものが作れるか」という全く別な方向になってきていますね。
          かなり変わってきているのですね。
久保 もうアプローチが全然違うんですよ。「全部自分で描いちゃうから別にシェーダーとかいらないよ」なんてやっていたらダメで。僕としては時代の流れに逆らうのではなくて、求められているものに合わせて最先端の技術もどんどん取り込んで最高のものを作っていきたいですね。

ヴァルハラゲームスタジオならではの環境

          アーティスト向けの開発環境には特にこだわりがあるとお聞きしたのですが。
板垣 これまで世界中のスタジオを見て回ってね。Xbox360系のスタジオも、PlayStation3系のスタジオもね。やはりスタジオごとに個性というものがあるよね。日本とアメリカの違いって、単純にブースで区切られているかどうかみたいに思われていたりするけど、アメリカでも日本のようにブースで区切らないところもあるよ。僕は「新聞社式」って言ってるけどね(笑)
          新聞社式?
板垣 新聞社ってそんな感じじゃない。そういう、みんながすぐにコミュニケーションとれるようなスタイルを採用しているアメリカのデベロッパーもあるんだよ。また全然違うタイプとしては、真っ暗に近いアンダーなところで、集中できような環境を作っているところとかね。
          そうなんですか。いや、全く知りませんでした。
板垣 そりゃそうですよ。普通、部外者は入れてもらえないから(笑)
一同 (笑)
板垣 で、仲間たちから開発環境について相談を受けたときに、まず考えたのはモニター。
          モニターですか。
板垣 お客さんがゲームを遊ぶ受像機が液晶だったり、プラズマだったり、ブラウン管だったりするけど、これらの差異で色が変わってしまうのはこれは仕方ないです。だけど、開発者が使っているモニターの発色は統一されていないと困るんですよ。
          という事は全スタッフのモニターが統一されているということですか?
板垣 スタッフ全員が作業するモニターの発色が同じじゃないと効率が悪いから。昔はマスモニ(※11)で最終の色合わせをやったりしたけど、高いし、第一あれじゃあ面倒くさい。本当に良い時代になったよ。
※11   マスモニとは、マスターモニターの略。複数台のモニターの発色や解像度を調整する際に基準となる信頼度の高いモニターの事。プロフェッショナル仕様で非常に高価。
          そうしないと色が合わなくなってきてしまうと。
板垣 そうだね。それからあとは照明ですよね。
          照明もですか!?
板垣 事務用のちょっとしたスペース以外は、正しく発色の調整ができるように、写真のプロが色評価に使うための照明なんですよ。
          写真の色評価用の照明を入れているんですか!?
板垣 そう。あとは本数だね。この対談の部屋の照明は3管の蛍光灯になっているけど、場所によっては2管にするとかね。暗い方が仕事はしやすいですから。かと言ってさっき挙げたような真っ暗な環境というのもどうかなと思うんで、そこはバランスを取りますね。
          照明によって色も変わるのですか?
板垣 当たり前の話で、白いものに赤いライトを当てたら赤くなっちゃうでしょ。だから蛍光灯の色温度がすごい大事なんですよ。モニタのガンマをいくら調整したところで、部屋の室内の蛍光灯の色温度が狂っていたら無意味。というか話にならない。
          そういったところまで気を配っているんですね。
板垣 効率化ですね。「僕のモニターではこんな色じゃなかった」なんて事がよくあるので。
久保 ありがちですね。
板垣 非合理的でしょ、そういうのは。
          おっしゃる通りですね。
板垣 あとは、みんながリラックスして作業できる空間作りかな...ずっとマンガ雑誌を読んでいる奴がいて、さすがにあれはどうかなと思ってるんだけど(笑)
一同 (笑)
          ちょっとリラックスしすぎだと?
板垣 その彼の論理は分かるんだけどね。仕事が速すぎるんで余った時間で雑誌を読んでるんだよ。分かるんだけど、もうちょっと人目を考えろと(笑)。 他にもニコニコ動画を見てる奴もいるけど、いいんですよ。そういうのは。
          そこは情熱があれば...
板垣 そう。情熱と、腕と、闘う志があればいいんです。
          とてもいい環境ですね。
板垣 逆に言えば、遊んでるのが目に見えてわかるんだからいいじゃないですか。四六時中、働いてるフリをする人と仕事をする方が、よっぽど非生産的ですよ。
一同 (笑)

求める背景アーティスト像

          これから一緒に働きたいと思うような背景アーティスト像について教えてください。
加藤 色んなものをよく観察している人。細かい部分まで見てよく知っている人は当然欲しいですね。あとは、やる気があって体力がある人ですね。
          細かく観察というのはどのような?
加藤 もの作りをする仕事ですので、普段漠然と生きていると見落としてしまうようなところを見ている人。そして、それをもの作りに活かせるような、そういうクセが付いている人が良いと思います。
          なるほど。大西さんはいかがですか?
大西 コミュニケーション能力が高い方ですね。ディレクションでのやりとりが迅速に行われるかどうかが良い仕上がりに関わってくると思うので。あとは、何事にもチャレンジできる方。
          チャレンジとは?
大西 この会社は色んなチャンスがある会社だと思うんですよ。「自分は背景アーティストだから背景しか作りません」というのではなくて、「背景アートを作りながら、企画のアイデアも出していく」というような何事にもチャレンジする情熱を持った方にぜひ来て欲しいと思います。
          逆に言えば、そういう情熱を受け止めてくれる会社だという事なんでしょうか?
大西 もちろん、そういう事です。
          それでは、背景アートチームをまとめて久保さんからお願いします。
久保 人間性で言うと、ユーモアがある人。どんな場であっても笑いは欲しいじゃないですか。同じ仕事ならやっぱり楽しく出来た方が全然いいものができると思います。
          笑いは大事なんですね。
久保 はい。あと、僕は海外のゲームをよくやっていまして、最近のお気に入りは「アサシンクリード2」と「アンチャーテッド」なんですけど、これらのゲームの背景は背景アーティストとしてすごくツボに入るんですね。
          「クボのツボ」と言う事ですね(笑)
一同 (笑)
板垣 インタビュアーさんも、だいぶこの会社の雰囲気に溶け込んできましたね(笑)
久保 これらのタイトルはすごく高い技術を持っているし、すごい綺麗な映像を最先端の技術で作っていて、現行のゲーム機だと「これくらいが限界なのかな」と思っていたラインを越えたものを出してくるんですよ。それがショックであると同時に楽しいし嬉しいんですね。「まだこんな事が出来るんだ!こんな可能性があるんだ!」みたいな感じで。
          なるほど。
久保 僕は海外の人たちのゲームを見てそういう風に感じるので、今度は僕がもっとすごい事をやって、彼らに可能性を見せてあげたいなと思いながら仕事をしています。
          すばらしい志ですね。
久保 背景アーティストという職業柄か、ゲーム中も背景ばかり見ていて敵に殺されるんですよね。敵に追われていて撃たれていても、ずっと壁ばっかり見ていたりして。
一同 (笑)
久保 そういったグラフィックの表現を自分も楽しみながらユーザーにも楽しんでもらって、かつ同業者と互いにリスペクトし合える、そういうものを僕は作っていきたいと思っているので、同じような志を持った人に来てほしいですね。
          なるほど。背景ばかり見ていて殺されてしまうような人がいいと...
久保 そういう事じゃないです(笑)。 変なまとめしないで下さい!
一同 (大笑)
          それでは、最後に板垣さんから一言お願いします。
板垣 僕は絵に対する美意識はあるけど、自分で絵が描けるわけじゃないので。その美意識をみんなが感じて信用してくれているから僕のディレクションを聞いてくれているんだと思う。一流のアーティストって、ディレクターだからといって誰の言う事でも聞くわけじゃないからね。
          なるほど。
板垣 僕から、来て欲しい人を一言で言えば「絵が好きな人」だね。そして「絵で人を感動させられる人」。それだけかな。
          分かりました。本日はみなさんありがとうござました。
一同 ありがとうございました。



写真: (C)板垣プロダクション  撮影: Ryuga Shinno.