Home > Itagaki's > スペシャル対談:松本零士先生 (前編) (4 / 4)

スペシャル対談:松本零士先生 (前編) (4 / 4)

2010.11.11

前へ 1 2 3

4

わが青春のアルカディア

          板垣さんは松本先生の大ファンだということを公言されていますよね。先生のどういう作品をご覧になっているんですか?
板垣 もう全部と言いますか。映像化されたものは全部見ていますし、漫画もザ・コクピットや、戦場まんがシリーズ(※1)はもう...
※1   松本先生の代表作品の一つで、1970年代後半から連載された、主に第二次世界大戦を題材にした短編漫画集。
その後の「ザ・コクピット」シリーズや、「HARD METAL」シリーズも含めて、「戦場まんが」シリーズと呼ばれている。現在は小学館が刊行。
松本 うん。あれは色々描いてるから、「スタンレーの魔女」(※2)なんてね、山が笑っていたというね、ああいうのもあるし。色んなタイプのを描いてるから。
※2   戦場まんがシリーズ第一巻に登場する表題作。
板垣 全部、読んでます。
松本 私は飛行機マニアですからね。飛行機とか戦車とか、メカマニアなんですよね。だから素材は架空ではなく、比較的正確に描いてます。
板垣 うんうんうん。
松本 レバー1つまで、設計図の通りに描いてます。桜花の吊るし方だって、絵を見せたら、監督は架空のものだと思ったらしいです。でも実はちゃんとした図面が家にある。吊るし方まで。その通りに描いてあるわけです。どういう風にして乗るのかとか。レバーだって。
板垣 はい。
松本 いっぱいあるんですよ。ヤマトでもね、大和の図面そのものが家にあるんです。
板垣 そうなんですか!
松本 だから極めて正確に描いてある。
板垣 桜花といえば「音速雷撃隊」(※3)ですよね。本当に切ない話です。もう何度も観ました。あと「わが青春のアルカディア」。あれはもう最高です。
※3   戦場まんがシリーズ第3巻に登場する、大戦末期の旧日本軍で開発された人間爆弾「桜花」をテーマとした作品。OVAシリーズ「ザ・コクピット」の第2話として映像化された。
松本 アルカディア、あれはハイリゲンシュタット(※4)なんだよね。
※4   ベートーベンが愛した、「ウィーンの森」の入口にある地方都市。ハーロックの故郷や先祖の地とされる場所。
板垣 泣ける話ですよね。あのRevi C...
松本 12D。
板垣 Revi C12D。
松本 ハーロックの先祖と子孫の話です。でも、宇宙に行くトチローは「男おいどん」の大山昇太の子供なんですよ。だから「男おいどん」は途中で打ち切ったように見えるけど、描いてるうちにもう無限大になってしまってね。ケジメが付かなくなるので、生まれて初めて「連載をここでやめさせてください」ってやめたの。
板垣 ふーん。
松本 突然部屋から消えるところで。トリさん(※5)だけ置いてね。
※5   『男おいどん』は1971年から1973年まで連載された作品。
貧乏青年、おいどん(大山昇太)を主人公とした、ハートフルストーリー。ほぼ毎回ストーリーの最後に、「トリよ、おいどんは、負けんのど!」と、自らが飼っているトリさんにのみ、自らの心情を吐露する印象的なシーンがある。
板垣 トリさん。
松本 ハーロックの物語や、宇宙を飛ぶ物語に「大山トチロー」ってのが出てくるでしょ。あれは大山昇太の子孫なんです。だから男おいどんは、何とかなったわけですよ。
板垣 おお。
松本 そうやって先祖代々、話をつないでいくのが好きなんですよ。
板垣 あのう・・・「わが青春のアルカディア」で、日本からドイツに行った光学技術者はトチローの祖先なんですよね?
松本 そうです。光学兵器や照準器の開発者です。
板垣 たぶん日本光学から行ってるわけですよね、潜水艦で。
松本 そうです。Revi C12Dは渋谷でね、11万か12万で買ったんですよ。その当時大金でしょ? 買ってぶら下げて駐車場までいく間にね、元取らなきゃといけないわけですよ。だからもう、駐車場に着くまでにあの物語ができてね(笑)
板垣 (笑)。すごいや、そりゃ本当にすごい。
松本 元を取らなきゃいけないんで、ただ買って置いてるだけでは、趣味で道楽になるでしょ。そうじゃないんですよ。それを有効に活用しなきゃいけない。せっかく手に入れたんだ。
板垣 ええ、そうです。
松本 しかも本物を見て描くんだから、断固として描けるでしょ。それでRevi C12Dの話を作った。
板垣 そうだったんですか。
松本 あれは私の宝物です。
板垣 泣ける話ですよね。あのトチローの祖先が、操舵索を、こうやってこうやって、こう体に巻きつけて、やったじゃないですか。で、ハーロックが側板を開けて「大丈夫か?」と聞くと、いやまぁ手が...
松本 ひもです。
板垣 そうそうそう。
松本 操縦桿と尾翼を結ぶロープが切れそうになったから、トチローの祖先は自分で、体にロープをくくってしまうんですよ。そして操舵用のロープの代わりをやるわけですよ。
          そういうことなんですね。
板垣 折しも戦争が終わる頃で、あのトチローの祖先の、確か漫画では台場(※6)という人だったと思いますけど、彼は光学技術を受け取るためにドイツに行くんです。そこでドイツの戦闘機乗りのハーロックとたまたま出会って。とある理由で、ハーロックは台場を戦闘機に同乗させるんですが、戦闘機に2人は乗れない。だから胴体後部の外板をはがして、そこに台場を詰め込むんですよ。「連れてってやる」と。
※6   アニメ版では、大山敏郎(トチロー)
松本 「スイスまで連れてってやる」と言ってるとこだよね。
板垣 ええ。で空戦が始まって、台場が押し込められたところに敵弾が撃ち込まれるんですよ。ハーロックはなんとか敵をやっつけるんですが...あのう、何か操縦感覚が何かいつもと違って...
松本 ふわふわしてる。
板垣 ふわふわしてる。で、なんとかスイス国境近くまで来て不時着するんですけど、ハーロックが外板を外すと、台場が切れたワイヤーを手と足に結びつけていて、今にも手足が引きちぎられそうになっている...
松本 だからハーロックは「俺の目をやる」と言って、機体から照準器を外して、台場に渡すんです。それで「早くスイスに渡れ」と。中立国だから。
板垣 台場は光学技術を学ぶためにドイツに来ていたから。だからハーロックは自分が一番大事にしていた照準器を、盟友に渡したんですよね。
松本 その直後にハーロックはレジスタンスに襲われて両目を失うんですよ。その時のハーロックはね。ところが台場のせがれが、戦後、ハイリゲンシュタットの湖のそばの病院に訪ねてきて、「目をお返しにきました」と言って照準器を返す。そういう物語です。
板垣 「台場、お前は生きろ。国境はすぐそこだ、お前は行け」と。でもハーロックは「自分にはまだやることがある」と言って、引き返して最後まで戦うことを選ぶんです。で、 レジスタンスに捕まって...
松本 目を潰されて。
板垣 レジスタンスは「殺しはしない」と。「だが、もう俺たちと同じ世界を見ることは、お前には許さん」と言って目を取りあげるんですよ。ハーロックは、以来ずっと誰にも会わず、あの...
松本 盲目だよ。
板垣 ええ。で、ずっと経ってから、老いたハーロックの前に台場の息子が現れて、自分の父が死んだと。死に際のセリフが、いつかドイツに行って、必ずハーロックに返せと。
松本 照準器を返しに来る。
          泣けますね...その照準器がRevi C12Dなんですね?
板垣 あそこでは描かれてなかったけど、もうたぶん、あの後すぐにハーロックは亡くなるんですよね、きっと。老いたハーロックが照準器をこう抱えて「台場よ、俺の目はお前の役に立ったのか? そっちは生きがいのある場所か?」と。涙など見せたことのない男が、盟友の息子の前で涙を流すという・・・そして松本節でエピローグが語られて・・・
松本 これは第二次大戦のときに、ハーロックとトチローの先祖が出会う物語です。その前は「ガンフロンティア」という西部劇作品があって、ハーロックとトチローが2人で西部をさまようんです。

三段跳び

板垣 あの...僕は「鉄の竜騎兵」(※7)も大好きで。
※7   戦場まんがシリーズ第2巻に登場する、フィリピンの戦場で戦うオートバイ兵を描いた作品。後にOVA「ザ・コクピット」の第3話として映像化。
松本 ああ、あれね。
板垣 あの陸王...
松本 陸王(※8)ですね。はい。あれは私がガキの時に、親父が乗って帰ってね。エンジンかけっ放しになってたんじゃないかな。明石公園の裏だったんだけど。5歳の私が暴走させましてね。またがってスタンド外しちゃったんですよ。
※8   アメリカのハーレーダビッドソン社とのライセンス契約により、日本が生産した排気量1208ccの大型オートバイ。
板垣 え?
松本 スタンド外さなくても、あれ別にひっくり返らないから、そのまま置いてあったんだ。ブレーキを外しちゃったかな。で、公園の中まで走り込んで止まったんです。エンストおこしてね。何にもぶつからなかった。
板垣 5歳で?    
松本 5歳ですよ。5歳のガキが陸王動かしちゃったんです。
一同 (笑)
板垣 今日はすごいな、すごい話ばかり(笑)
松本 ムチャクチャですよ。
板垣 こんな話はもう(笑)
松本 もう、私は暴れん坊のガキでね。その頃は塀の上でね、明石公園の裏の川崎航空機の社宅を取り囲んでいる塀の上で、チャンバラごっこをやった。塀の上ですよ。
板垣 はい。
松本 それでね、「丹下左膳!」って言って片目をつぶっちゃったんですよ。そしたら立体感を失うでしょ。それで真っ逆さまに落ちてね、溝に頭ぶつけて気絶したんです。
          真っ逆さまにですか!?
松本 そしたら家の中にいた姉までね、ポカーンっていう音が聞こえたって言うね。で、兄貴がね、「頭割った!」って言って飛び込んできた。そしたら私が大の字になって伸びてるんですよ。
板垣 (笑)
松本 悪ガキだったんですよ、そういう意味では。何でもやってみなきゃ気が済まない。何回そういうヤバイ危ない目にあったか分からない。
板垣 ふーん。
松本 東京駅の階段を三段跳びをやってて。あの、幅の広い場所があるでしょ。これを飛び越えてアキレス腱を切ったんですよ。
          どうして東京駅で三段跳びなさったのですか?
松本 NHKの仕事で九州に行かなきゃいけなかったのに、ブチ切れたんですよ。でも痛くないんです。ジーンとしただけでね。ただ、走ろうとしたら立てないでクニャとなるんです。見たら足がクニャクニャなんです。振り回してみたら回るのね。「これは切れたわ」と思って座っていたら、駅員さんが来て「どうしましたか?」と言うから「アキレス腱が切れたみたいです」と言ったらね。「そんなニコニコして、切れたはずないですよ」って。
一同 (大笑)
松本 「それじゃ、これを見てみろ」って振り回したらね、「あら、こりゃいかん」ってね。
板垣 こうやって振り回したんですか、足を(笑)
松本 振り回してみせたの。そしたら救急車が来たんだけどね。タンカに乗せられたんです。恥ずかしいじゃないですか。あの人ごみの中を、丸の内側までずっと出されるから。
板垣 ああ。
松本 白い布があったから「これ、かぶっちゃダメですか?」と言ったらね、「顔だけは出しておいて下さい」って。あの、全部かぶったら死体を運んでるみたいだから。
一同 (大笑)
松本 それで、お茶の水の医院まで運ばれたんです。でも痛くも痒くも無いからね。あのう、痛い人とね、痛くない切れ方とあるんです。私の場合はジーンとしただけで何ともなかった。で、今度はアキレス腱をつなぐのも見たいじゃないですか。経験だからね。そしたら合わせ鏡にして見せてくれた。
板垣 へえー。
松本 「あなた、まだ山に登るか?」ってお医者さんが言うからね、「登る」って言ったらね、「傷口大きくなるぞ」って。「かまわん」と。「男の足なんてどうでもいい」と。「じゃあ、しっかりくっ付けといてやるから」って、しっかり縫い付け合わせてくれたんです。
板垣 ああ。
松本 それで入院してるときにね。ちょうど松竹歌劇団で999か何かを演じてる時があったんですよ。だから舞台女優さん達がね、ものすごく派手で、色々な扮装のまま見舞いにやってくる。それに漫画家は、こういうムチャクチャな格好だし。普通の出版社の人は背広にネクタイしてるでしょ。それから新聞記者から、知り合いの警官まで、色々なタイプの人が来るから。
板垣 はい。
松本 ちょうど向かいの部屋に、アメリカ人の少女が靭帯を切って入院していたんですよ。で、その人がそーっと聞いたらしいの。「前の部屋の男はマフィアか?」って。
一同 (笑)
松本 「漫画家だって伝えといて」って言ったらね、わかった途端にね、バッとドア開けて「ハーイ」って言ってくれましたけど。
一同 (笑)
松本 漫画家だって、カトゥーニストだと言うとね、もう、もう、全然違うんですよ、反応が。「ハーイ」ってね。
板垣 いや、そりゃあ驚きますよ、女の子ですし(笑)
松本 だってね、こんなムチャクチャなのがいっぱい来たら。マフィアと間違うよね。「マフィアか?」って、あれ可笑しかったなぁ、本当に(笑)
板垣 でもその時に、しっかり手術してもらったから、やっぱりマチュピチュも登れたんですよね。
松本 大丈夫なんですよ。結んでおいてもらって良かった。
板垣 本当にそうですね。
松本 女の人はね、「傷を残さずに繋いで」という人もいるらしい。ちょっと穴を開けてね、そーっと引っ張り出して、繋げる人がいるらしい。
板垣 ああ、なるほど。
松本 だけど、これは切れやすいそうです。しっかり結ばないと。だからね、私は正座するときに、ちょっと痛いんですよ。アキレス腱が少し短くなってるんだよね。でも普段歩く時には別に何の支障もきたさないし、変にもならない。何km歩こうと、何百km歩こうと平気なんだよね。山の上でもジャングルでも走りまわったから。
          三段跳びは、階段を降りたんですか?
松本 上がってたんです。もう発車のベルが鳴ってるのよ。だからね、もう何が何でもそれに乗らないと間に合わない。それで広いところをね、飛び越えたんですよ。そしたら、その時に「バサッ」っていうね、傘を逆さまに振るような音がしたんだよ。それが切れた音だった。
板垣 踏切足の方ですか?
松本 左足で着地したらヘタッといったんですよ。立ち上がったら立てないのね、フニャっとなって。痛くないから何ともないのにね、足を見たら、なんか、こう振り回してみたらグニャグニャになって。「あらら、こりゃやられた」と思ってね。
板垣 あちゃーって感じですね。
松本 ただ、痛くも何ともなかった。幸せな切れ方。のた打ち回るような切れ方もあるらしいですよ。
          普通は痛い方だと思いますので、先生は幸せでしたね。
松本 うん。ハッピーな切れ方だった。
一同 (笑)
板垣 ハッピーな切れ方。最高だ(笑)
松本 本当にジーンとしただけで、あとは何ともないんですよ。それで病院が家に電話してくれてね。「ケガをしました」という電話だよね。家のものが「どういう?」と聞いても「いえ、今は言いようがありません」という返事だったらしいのね。
板垣 うん。
松本 だから家の者としたら、ホームから落ちたか、何か、大ケガだと思うじゃない、ねぇ。「救急車が来て連れていった」と言ったらしい。
          びっくりされたでしょうね。
松本 そしたら病院でケロっとしてるからね。面白かったなあ。合わせ鏡にしてもらって、つないでもらうのを見るのね。自分のアキレス腱を見た人ってあんまりいないでしょ。「これがそうだ」って引っ張り出してね、見せてくれたの。
後編
前へ 1 2 3

4