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スペシャル対談:松本零士先生 (後編)

2011.06.17

収録:2010年4月28日
日本を代表する漫画家、松本零士先生がヴァルハラゲームスタジオにお越しになり、とても貴重なお話と激励のお言葉を頂きました。
前編はこちら
松本零士先生プロフィール

 日本を代表する漫画家。福岡県出身。1938年生。
 宝塚大学教授、京都産業大学客員教授、デジタルハリウッド大学特任教授、日本漫画家協会常務理事、コンピュータソフトウェア著作権協会理事、かかみがはら航空宇宙科学博物館名誉館長、呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)名誉館長など、数々の重職を兼任。
 『男おいどん』で第3回講談社出版文化賞を、『銀河鉄道999』『戦場まんがシリーズ』で第23回小学館漫画賞を受賞。2001年には、日本文化の発展に寄与した功績により、紫綬褒章を受賞。また2010年11月、旭日小綬章を受賞。その他、受章歴多数。

 代表作品:銀河鉄道999、宇宙戦艦ヤマト、宇宙海賊キャプテンハーロック、男おいどん、
わが青春のアルカディア、ガンフロンティアなど多数。

幼少期に体得したもの

板垣 僕、いま分かったんですけど、先生の描く作品、特に「戦場まんがシリーズ」ってのはこれ全部「生死の境」なんです。でも極限状況でも、やっぱり主人公達がユーモアを忘れないんですよ。本当に。
          はい。
板垣 「わが青春のアルカディア」だってシリアスな話です。だけどトチローの先祖がですね、ハーロックが戦闘機を乗り換えるときに、垂直尾翼に「お前のマークがないぞ」と呑気に言うんです。するとハーロックも「お前の好きに描いてくれ」と返す。
松本 うん。
板垣 マークをこう描くんですけど、先生、あれは「ベートーベンとチャイコフスキーの相合傘」でしたっけ?
松本 うん、そう。
板垣 (笑)。そういうのを描いてみたりね。で、それを見てハーロックが「これはちょっとダメじゃないかな」「じゃ、こういうのはどうだ?」「いや、これもダメだ」って、楽しいやり取りがあるんです。そこでほっとした後に、いよいよ男の生き様がシリアスに描かれるわけですよ。だからこそ余計に、哀しみと感動が心に染み入ってくるっていうか。
          心の深いところに入ってくるのですね。
板垣 だからやっぱり、先生なんですよ。登場人物の全員が、松本先生なんです。
          なるほど。
板垣 今日お話して、知りました。
松本 うん。私は悪ガキの典型で、暴れなきゃ気が済まないから。
板垣 うーん。そうなんだよなぁ。
松本 それとね、やっぱり剣道や柔道をやってね。高校2年くらいまでは一位だったんです。でも途中でやめたの。
板垣 僕も小六まで剣道をやりました。
松本 青年はある時にいきなり身長が伸びるんですね。ワッと大きくなる瞬間がある。私は身体が小さいから、正面から「メーン!」と来られるとね、頭の後ろ側に竹刀が当たるんですよ。
板垣 あれは本当に痛いです。
松本 ジーンとしてね、もうたまらんと。だから「突きー!」とやるんだ。「突き」をかけると相手はでんぐり返るの。ところが「突き」が禁じ手になったでしょ?
板垣 下手したら、下に入り込みますからね。僕のときにはもう禁じ手でした。
松本 これ、危ないからね。禁じ手になっちゃった。柔道だとね、足払いとかうまくいけばいいんだけど、いかない時はこっちがぶん投げられるわけね。
板垣 はい。
松本 ただまぁ、受身はそれで学んだんだね。だから駅でエスカレーターが急停止した事故の時に、みんな転げ落ちたじゃないですか。私も転がったんだけど、ゴロゴロゴロゴロ...コロン、パッっと立ち上がったわけですよ。
一同 (大笑)
松本 そしたら係の人が「手は? 足は? 腰は?」って言うのね。「いや、何ともないよ」って言ったら、ポカーンとしちゃって。ああいうのはね、やっぱりガキの時からの習性で、暴れん坊だったおかげですよ。ケロンと立ち上がりました。そりゃ別にこっちは驚かないもん、そんなもん。何度も何度も崖から落ちてるから。
板垣 もう理屈じゃなくて、身体が動いちゃうんでしょうね。
松本 そうです。それで関門海峡で貨物船の腹くぐりをやってたんだから。
板垣 関門海峡ですか。
松本 魚が食いたい一心でね。終戦直後だから、九州に戻ったら食い物がないんですよ。
板垣 ええ、そうですよね。
松本 芋と大根メシね。ところが大根メシと言うけどね。大部分というか、100%大根なんですよ。大根にかろうじて米粒が付いてるの。だから姉に言ったの。「一口でもいいから、メシはメシにしてくれんか」と。「大根は大根で炊いてくれ」と。「両方食うから」と言うけど、ダメだった。
板垣 うーん。
松本 タンパク質がないでしょ。だから自分で魚を捕ったんです。当時は終戦直後だから、撃沈されて沖で擱座(かくざ)してる貨物船があったんです。そこの中は魚礁みたいになってるの。そこまで泳いでいくわけですよ。だけど、泳いでいく途中で貨物船の腹くぐりをやらなきゃいけない。
板垣 ああ、そういう事ですか。
松本 それを2隻くらいやっていってね、魚捕ってまた戻ってくるわけですよ。これで先生を脅かしたことあるから。中学の時にね、キャンプで海水浴に行ってね。なんか沖へ引きずり出されてね、先生にジャボッと突っ込まれたんですよ。
板垣 ひどい先生ですね。
松本 数学の先生だったんだけどね。バッと潜ってね、浮かび上がらずに、先生の足の周りをクルッと一回転してね。息の続く限り岸に向かって泳いで。息の続く限りですよ。
板垣 はい。
松本 で、途中でちょっと顔出して様子を見たら、先生がオロオロしてるんだよ。で、また潜ってずーっと岸まで泳いでね。もう胸がつかえるところまで行ってね、やっと顔を出して立ち上がったらね。こっち向いて、「あぁぁぁ」って先生がため息ついてるの。
          「生きてたー」ってホッとしたんでしょうね(笑)
松本 だから、ちゃんと仕返しをしたの。
一同 (笑)
松本 まあねぇ、貨物船の腹くぐりやってたガキを、海に突っ込んだってそりゃ無駄ですよ。 そんなもの、突っ込まれたうちに入らない。
板垣 (笑)
松本 だって海水の抵抗というのは物凄くてね。10m潜るの大変ですよ。でも12~13m潜らないとダメなんです。海底まで息は続くんですよ。で、海底を蹴飛ばして上がるでしょ。ところが途中で息切れしてくるのね。たまらなくなってくる。で、アザラシのように飛び上がるわけですよ。ザバーッと水の中から。
板垣 うんうんうん。
松本 そういうのを小学生の時から、同級生の漁師のせがれと一緒にやって。最初はたじろいでね。
板垣 はい。
松本 それまでは四国に疎開してたから、龍馬脱藩の肱川の中で終戦だったの。川でしか潜ったことなく、泳いだことなかったの。海を知らなかったんです。
板垣 はい。
松本 で、九州へ戻って、関門海峡に飛び込んだらね、浮力の物凄さに気がついてね。じっとしてれば顔は出てるわけですよ。でも最初は怖いからオタオタしてたら、漁師のせがれの同級生が先に飛び込んでね。「コラーッ! 松本飛び込めー! きさん、それでも男かー!」とくるわけ。男かって言われたら、もう飛び込まないわけにいかない。
板垣 まったくです(笑)
松本 飛び込んだらね、物凄い浮力なんだよね。それで今度は海底にある貝とか、色んなものを捕るために潜るわけです。
板垣 はい。
松本 10mがいかに大変か。まず停泊している貨物船の腹の下を何隻もくぐる事をやって。遊びでスクリューにね、「潜ったという印」を付けなきゃといけない。
板垣 証拠にね。
松本 ガリガリっとやるでしょ。そしたら上から船員さんが覗いてね、「まだ回さんからいいけど、回す時は言うから、そん時は逃げろよ」って優しいんだよ。
板垣 大らかですね(笑)
松本 それから沖で擱座している貨物船まで行く時は、走ってる船の下をくぐらなきゃいけない。
          走っている船の下ですか!?
松本 これ危ないからね。
板垣 危ないですよ。巻き込まれますもん。
松本 思い切り深く潜らなきゃいけない。それから、八丁櫓っていうのがあるでしょうが。これが恐ろしいんですね。あの八丁櫓で腹こすられたら切れますよ。
          八丁櫓というと船を漕ぐオールのようなものですか?
松本 オールじゃなくて、物凄く長いやつね、後ろ側で八丁櫓って...
板垣 船頭さんが持っているあれですね。
松本 そうそう、それです。あれで腹こすられたらね、腹がブチ切れる。裂けるんです。だから「気をつけろ」と漁師さんから言われてね。あれが来ると避けてたよ。しかし嫌でも泳がなきゃ。泳いで魚を捕って、いっぱい捕って帰って家族が食ってくれるのが嬉しかったんです。
板垣 ああ。
松本 田舎にいるときは、鳥や何かでね。ただあのツバメを襲った時だけは怒られた。「ツバメは、やっちゃダメだ」って言われてね。
板垣 はい。
松本 スズメまでは良いわけですよ。
板垣 分かります。
松本 ヘビはね、打ち殺しはしたけど、ヘビは食う気にはならなかったね。
板垣 苦手だったんですか?
松本 ヘビとウナギはね、水の中で、石の間にこう手を突っ込んで、頭を捕まえるとね、感覚が同じなんですよ。
板垣 でしょうね。
松本 「あ、ウナギ捕まえた!」って引きずり出したら青大将だったりする。
板垣 (笑)
松本 そしたら「コノヤロー!」って振り回してベターンとやって殺してしまう。
板垣 要するように、苦手なんじゃなくて嫌いなんですね(笑)
松本 うん。なんかね、ヘビを見るとね。ただ、こっちに向かってくるヘビがある。こうやってね。で、それを尻尾捕まえてブチ殺して、ぶら下げて帰ったらね、ばあちゃんが「お前、それヤマカガシぞ」って。毒蛇ですよ、猛毒のね。
板垣 (笑)。
松本 毒蛇だって知らないから。「生意気に!」ってんでね。そこらへんの枝を折って、叩き殺したんです。で、振り回してブチ殺したら毒蛇だったの。
板垣 僕も、東京の端っこの山の中で生まれ育ったんで。庭をヤマカガシが通り過ぎたり、マムシも...
松本 マムシね。灰色のあれね。
板垣 はい。マムシとかもいましたし。
松本 イチジクの木に、マムシが這うと分からないですよね。幹と同じような色をしているから、あれは危ないですよ。マムシは見つけると必ず真っ二つに叩き切るというね、そういう事やってたから。
板垣 マムシも真っ二つですか。
松本 もうムチャクチャだったし。栗の木に上ったら、枝がへし折れて、栗のイガの山の中に落ちたりね。柿をやっと採ったら、枝ごと墜落したりね。斜面に落ちるからケガはしないけどね。
板垣 柿の木は折れやすいんですよね。
松本 折れやすいんだ、あれ。パカーンと。
板垣 ええ、パカーンと行きます。
松本 それから、鎌を持って走ったためにね。膝を鎌にぶつけて、膝を切ったことがある。それもポンポンポンと3回くらいね。3ヶ所くらい切れてるんですよ。もうムチャクチャですよ、ガキの頃は。今の子供は許されないよね。
板垣 そうそう。みんな禁止されちゃう。

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